君の世界で私は、
「あのね、君。36分も外で、この真冬日に待たせた挙句に「早く行くよ」って横暴すぎると思わない?」
「玄関で待ってりゃいいって言ってるじゃん」
「……うん、わかった。もう何も言わないよ」

 浅くため息をついてブレザーのポケットに手を突っ込んで、「遅刻するよ」といつもみたいに振り返ると真紘がジッと私を見てた。

「なに」
「髪、色変えた?」

 無遠慮に伸ばされた手を払うこともできず、私はすくわれた髪に視線を落としながら口早に答えた。

「…うん。ちょっと明るいのにしたの」
「へぇ? よく似合ってる」

 何事もなかったようにパッと手を離し、自分の前髪をちょっとつまんだ真紘はと言うと。

「まぁ、この色も俺が染めればもっと映えると思うけどなっ」

 …本当に、もったいないな。
 脱力した私はずり落ちかけたカバンを肩にかけ直してスタスタ歩き出した彼の背中を追った。

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