SIGHT
序章~百道茂(ももちしげる)の場合~
目が覚めた時には窓から射し込む日光がちょうど部屋の影を半分ほど消していた。
目覚めのいい朝ではない。むしろ昨晩何軒もハシゴをして自分がどこで誰と何をしていたのかまるっきり記憶が欠乏している二日酔い全開の最悪の目覚め。と言った方が型にはまるだろう。妙に体が痛い。頭は寝起きのせいか霧がかったようにボーッとしている。そんな状態でも今居る場所が自分の住んでいる家ではないことは区別がついた。
無機質で殺風景な天井、左腕には一本の管が繋がれており、その先の点滴からは透明な液体が規則的に滴を落としている。どうやらここは病院らしい。
「気がつきましたか?」開いた扉の側に白衣を着た医者と看護婦が立っている。そしてゆっくりとこちらに近づいてくる。 「昨夜あなたは緊急搬送されてきました。その時の事を覚えていますか?」
点滴の調整をしながら諭すように医者は訪ねる。 「…何も覚えていません。何度か思いだそうと試してみたけれど頭がボーッとしていて無理でした。」
「そうですか。運ばれてきた時あなたは頭部から出血していたんですよ。他にも上半身に打撲が数ヶ所ありました。幸い出血は少なくすぐに治まったので昨夜のうちにICUからこちらに移動してきました。」
そう言われるまで気がつかなかったが頭部には包帯が巻かれており、上半身には局部的に湿布が貼られていた。
「大丈夫だとは思いますが万一気分が悪くなった時はすぐにナースコールを押してください。」 そう言って二人は部屋を後にした。何が起きたのかまるで理解できていない私はただただ静寂な時間が刻々と過ぎていくのを待つほかなかった。分かることは自分の身に何かが起きたという事だけだった。

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