SIGHT
序章~大嶺大輔(おおみねだいすけ)の場合~
時刻はちょうど午後6時になった所。普段ならまだ会社でデスクとにらめっこしている時間だが予定より早く仕事が片づいたので同僚達より一足早く退社した。

「ったく、こんな日に限ってラッシュに巻き込まれるなんて。さっきから殆ど進んでねぇじゃねーか。」

完全に渋滞に巻き込まれてしまった私は募るイライラを発散するため普段はあまり見ることのないカーナビの電源をつけた。流れるてくるニュースをただ聞き流しているだけだったが何もしないよりは幾分ましだった。
「最近調子上がらねーな。はぁ、仕事ってこんなしんどかったっけ。」 入社した当初は毎日充実した日々を送っていたが自分にとって刺激的なものが一月、また一月と風船がしぼむように消えていった。
いつからだろう。カメラを担ぎ走り回ることに嫌気がさしてきたのは。毎日毎日同じような記事を書くための材料収集。本当にこれが自分のやりたかった仕事なのかと本気で悩む事もある。

「なんか俺が燃えるような事件とか起きねぇかなー。」

ぶつくさ言いながら渋滞が掃けるのを待っていると微かにだが救急車のサイレンの音が聞こえた。音の聞こえる方向は自分達の前方からのようだ。
「誰か事故ったか?渋滞の原因がこれなら仕方ないな。」

しばらく車を進めると国道から少し逸れた脇道に人が集まっているのが見えた。興味があったので渋滞から離脱し、空き地に車を留め、近くまで寄ってみる。

「何かあったんですか?」話を聞いてみるとどうやら轢き逃げらしい。救急車はもちろん警察もその場に居た。
群がる人の間をかき分け奥に進むとちょうど救急車に載せている所だった。顔は見えなかったが周囲の血痕からかなりの重傷であることは想像がついた。

「マジかよ。」
さっき自分で事件が起きればいいと言ったがまさか本当に起きるなんて…
車まで戻り助手席に乱雑に置いてある一眼レフを持ち出し現場に戻る。そしてその場の状況をフィルムに納める。
久しぶりに戻ってきた刺激が体を支配し、何度もシャッターをきる。その音は周りの人混みによって掻き消され聞こえていたのは私だけだろう。
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