SIGHT
少々湯船に浸かりすぎてしまったが、そのおかげで体から発汗するほど温まった。


バスルームからあがると、いつ頃帰ったのだろう。母がリビングに横たわり寝息をたてていた。

「やれやれ。風邪でもひいたらどうすんだよ。」


乾いた洗濯物の中からタオルケットを引っ張り出し、母に被せる。

よほど疲れているのだろう。私がいくら足音を起てようと、起きる素振りを見せない。


毎日毎日朝から夜遅くまで働いて、疲れないわけはない。
私が高校生の頃、少しでも母の負担を減らそうと思い、就職の話を持ちかけたことがある。

物静かな母がその時は信じられないほど強い口調で
「私のことは心配しないで!あなたは自分が進みたい道に進みなさい!」

そう言った事を覚えてる。


その頃から母は更に仕事に没頭するようになった。私を大学に通わす為に毎日こうしてボロボロになるまで。


「母さん、ありがとう。」

直接母に伝えたことは正直ない。
だけど感謝はしている。
いつか必ず母には恩を返すと決めている。
その時まで感謝の言葉は待っていてほしい。


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