SIGHT
休憩室は昼過ぎの憩いの場として患者が集っていた。
財布から小銭を取り出し、自販機で微糖のコーヒーを買ってベランダに出る。
外は真冬の割に日光が優しく射していてむしろ少し暖かいくらいだった。
「葉子のやつ、俺が入院してる事知ったら何て言うだろ。」
三回目のコールが鳴り終わると電話が繋がった。
「遅い!私が連絡入れてあげてるんだからすぐに返事よこしなさいよ!」

マシンガンの如き罵倒が襲いかかってくる。

「普通一言目でいきなり怒鳴るかよ。」

「連絡しないモモが悪いんでしょ!」

どうやらこちらが折れるしかないようだ。

「連絡しなかったのは悪かった。というか連絡できなかったんだ。」

「モモのくせに生意気。どうせろくでもない用事だったんでしょ?」

「用事っつーか、俺昨日から都内の病院に入院してんだよ。」

「モモが入院?何で?」

「いや、おかしい話なんだけどなんで入院してんのか俺には分かんねーんだよ。気がついたら病院のベッドに居たし。」

「なによそれ、あんた記憶が無いわけ?」

「まあ、そういう事になるな。」

「あんたとうとうバカになったんじゃない?」
電話越しにケラケラ笑う葉子の声が聞こえる。

「うるせえよ。でも明日には退院出来るらしいから良かったよ。」

「変なやつ。まあとっとと退院しなさいよ。あんたがいないと私が弄るやつ減るから暇なの。まあ、じゃあね。」

好きなだけ言って電話はきられた。

ただの電話なのに何でこんなに疲れるのだろう。
その後に母にも連絡を入れたが結局大した怪我では無いことが分かった。
買ったコーヒーはすっかり冷たくなってはいたがだからといって不味くなるわけでもない。
私はコーヒーを飲み干し自分の病室に戻った。
途中小さな頭痛が起きたが大して気にならなかったので
私はベッドに入り目を閉じた。

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