SIGHT
疑問
さきほどまであれほど集まっていた人は救急車が出るのと同時に蜘蛛の子が散るように姿を消した。
変わりに警察が増え、私もその場に居るわけにはいかなくなった。事故があったと分かる証拠写真が見つかれば厄介だ。
「とりあえず帰るか。」
空き地まで戻り、来たときと同じように一眼レフを助手席に置く。
わずかにだが車内でも吐く息は白くなっていた。
エンジンをかけ、空き地を後にする。あれほど渋滞していた国道もスムーズに走れるくらいになっていた。辺りはもう薄暗い。
いつもと同じ帰り道だが、普段より強くアクセルを踏み込む。早く帰って今日あったことを整理したい。
「運ばれた人誰だったんだろ?かなり血が出てたみたいだし。今日辺りニュースで出るかな。」

アパートに帰ってテレビをつけるとやはりニュースで放送されていた。事件の内容は現場で聞いた内容と相違ないものだったが、一つの点に関してどうも腑に落ちない部分がある。
 犯行目的。
 普通轢き逃げを故意に起こそうと考えるときは、躊躇いなくアクセルをめいっぱい踏みこむであろう。しかし、事件があった現場のタイヤ痕はどこか様子が違う。
被害者に車が接触するまでに何度もブレーキングと加速を繰り返したようなタイヤ痕なのである。ニュースで報道された内容ではあまり詳しくは映っていなかったのだが、私はリアルで現場の様子を見ている。
 「相手を本気で殺そうと思うのなら何で躊躇う必要がある。」
 
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