おたく王子



「うわっ!割れてるっ!」


オーブンから取り出したプレートの上で、何枚ものクッキーが割れてしまっていた。

それも、ほとんど朝日が作ったものだ。
眞子のものはほぼ無傷の状態。


「なんでぇ・・・」


途方に暮れる朝日を、眞子が励ます。


「多分ちょっと生地が薄かったのかも。今より少し厚めにすれば大丈夫だよ!もう一回焼こう!」


「うぅ・・・でももう三回目なのに・・・。いっそ眞子ちゃんが作ったやつあげた方が・・・」


「それはダメっ。朝日ちゃんが作ったやつじゃなきゃ意味ないよ。朝日ちゃんの感謝の気持ちとして渡すんだから」


さすがクラス委員。
まっとうなこと言うなぁ・・・。

しみじみ感じながら朝日は生地を伸ばす。


こんなクッキー、もらってくれるのかなぁ・・・。


朝日はなんとなくクッキーをかじる是人の姿を思い浮かべたが、違和感があった。

アイツ細いから、お菓子とか食べるイメージ無いんだよね。

なよっちいし・・・。



――『靴は殴るものじゃなくて履くものですよ』――


・・・。


そのなよっちいのが自分を助けてくれたのだと思い出す。
是人が来てくれたおかげであれ以上叩かれずに済んだしローファーも取り返せた。
なのに。



"ありがとう"。



その言葉が言えなかった。
だって今さら照れくさい。恥ずかしい。
言うタイミングもなかった。

そんなこんなで口頭では言えそうにない。


だから、クッキーという形にした。


受け取ってほしいな・・・。



朝日はじんわりと沸き上がってきた是人へのありがとうを生地に込めるように、丁寧に丁寧に伸ばしていった・・・。




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