オフィスの甘い罠
『面白くなるぜ。オレといたら』



ことあるごとに、柊弥が
あたしに言ってた言葉。



失って始めて気づいた。



あたしの毎日は、ホントに
アイツによってこんなにも
変えられてたんだって。



忙しくても腹がたっても、
決して退屈じゃなかった毎日。



その喧騒が、今はこんな
にも、懐かしい……。




――ふと、バッグの中で
携帯が振動してるのに
気づいてあたしは立ち止まった。



今は夜の街角。


今日もまたかりそめの
悦楽を求める人間が集まる
店に、今から出勤しようと
歩いてたところだ。



「なんだろ。また客かな……」



バッグをあさってると、
携帯を探してるくせに
つい別の物に目が留まる。



それは、あたしの
スケジュール帳。



表紙にはキャップについた
クリップで、1本の
万年筆がとめてある――。
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