オフィスの甘い罠
「……………」



手放せなくてひそかに
持ち続けているそれを、
あたしはそっと抜き取って
手にしてみた。



しっくりとあたしの右手に
おさまる、細い光沢のある
ボディ。


そのひんやりとした感覚が
心地いい。



『勝手にペアになんて
しないでよ!』



ムキになって怒鳴った
記憶が懐かしかった。




人ゴミの中、鳴り続ける
携帯にも出ないで。



あたしはその“なじんだ”
感覚をギュッと握り
しめて、いつまでもその
場に立ち尽くしてた……。




     ☆☆☆☆☆



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