オフィスの甘い罠
反発したいのに、何か
抗いようのない魔力を
秘めた、テナーボイス。



その魔力に体が金縛りの
ように動けなくなるのを、
あたしは頭の片隅で感じてた。



「理由なんかそれで充分だろ。


つまんねー毎日にウンザリ
してんだろ?

だったらつきあえ、オレに。

少しは面白くなるかも
しんねーぜ?」



クローゼットの傍を離れ、
柊弥があたしの方に歩いてくる。



逃げなきゃと思うのに体は
ちっとも動かなくて……

あっという間に、あたしは
歩み寄ってきた柊弥の
たくましい腕に抱きすくめ
られてた。



「やめてよ……。

こんなことで、何かが
変わるわけなんて
ないじゃない……!」



ようやくノドの奥から
しぼり出した声。



それは間違いなくあたしの
思いなのに、何だか他人の
もののようによそよそしい。
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