彼の視線の先、彼女。







「まぁ、壱稀と仲良くなるのは不可能に近いけど」


舌をペロリと出して悪戯に笑う。


涙が引っ込んだ。






幸せだと思った。

こんなに私のことを考えてくれる人なんてきっと千尋だけ。






私の我が儘に付き合ってくれる千尋が、


私を馬鹿にしてくる千尋が、


私に頼って甘えたフリをする千尋がとても大事だ。






「さーて、久しぶりにゴリちゃんに会いに行こうかな」


「そうしよー」




郷田先生は何だかんだ言って千尋が大好きだ。



本当に寂しそうだもん、千尋がいないときの授業。



そう言ったらきっと千尋が気持ち悪がると思うから黙っておいた。





「あーあ、予鈴なっちゃった!行くよ千尋っ!」


「えぇー、瀬璃ちゃん歩こーよー」


屋上から出る前に見た空は2つの雲が仲良さ気に並んでた。

それが私と千尋ってことにしておこう。





そう思いドアを閉めた。




「瀬璃ーっ、置いてくなーっ!」


それはまだ夏の暑さが残る秋の出来事。







< 107 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop