らっく!!
「愁…?」
「おはよう、美弦」
突然の電話に美弦は不思議そうな声を上げた。
「どうしたの?朝から電話なんて珍しいね」
「…美弦の声が聞きたかったから」
スラスラとでてくる言葉はきっと美弦の顔を真っ赤に染めた。
可愛いな―…。
きっとそう思えるのは世界で彼女ひとりだ。
「やだっ愁ってば熱でもあるんじゃない!?」
そう言われてみればまだ測ってないな…。
「じゃあ、あとでね?」
短い朝の時間は俺と美弦の会話を妨げた。
そろそろ登校の時間だ。
「ああ、遅刻するなよ?」
「しませんー!!」
どうだか。
妙なところでおっちょこちょいだからな…。
そんなことを思いながら電話を切る。
俺は制服に着替え始めた。
自分が学校に行きたがる日がやってくるとは入学当初、思えなかった。
俺にとってあの学校は監獄みたいなものだ。
中学卒業と同時に家を出てやっと自由に慣れたと思ったのに次に用意されていたものが“あれ”だ。
“あの人”も相当、趣味が悪い。
テーブルに積み重なった書類の山を見た。
風邪の原因なんて分かりきってる。
寝不足による抵抗力の低下。
これに尽きる。
「行くか」
美弦が待ってる。
鏡に映った自分は風邪を引いてるとは思えないようなすっきりとした顔になっていた。