らっく!!


面倒くさいな…。


年の瀬も迫った大晦日。


俺は数ヶ月ぶりに一人暮らしのマンションから実家に戻った。


好き勝手やらせてもらってる手前、親父の命令には逆らえない。


早く挨拶して帰ろう。


正月になればいらない事を言う親戚がうじゃうじゃと溢れてくる。


1日早いがそれくらい大目に見てもらいたい。


俺はそう思いながら親父の部屋の扉を叩いた。


「失礼します」


「来たか…座りなさい」


親父は数ヶ月ぶりの再会にも関わらず驚きも、戸惑いもないようだ。


俺は言われたとおり、ソファに座った。


「お前が来たということは夏輝の伝言は届いたみたいだな」


親父はふうっと息を吐いた。


「直ぐに戻らせていただきますけどね」


俺はここが好きじゃない。


…嫌なことを思い出すから。


親父は苦笑いしていた。


「そう言うな。予定が入ってるわけでもないだろう。ゆっくりしていきなさい。母さんが心配していたぞ?」


「いえ、帰らせてもらいます」


クリスマス以来、何かと忙しくて美弦にかまってやれなかった。


きっと寂しがってる。


親父は伏せていた顔を上げた。


「すまない。帰してやれそうもない」


「…はい?」


突然発せられた意味深なセリフに俺は呆けた顔をして親父を見つめ返した。


「夏輝、入りなさい」


親父が合図すると俺が今しがた入ってきた扉から兄貴が現れた。


ここにいるはずがない人物に俺は思わず立ち上がった。


「どういう…ことですか…?」


俺は兄貴と親父の2人の表情を見比べた。


俺の記憶が正しければ兄貴は数週間前にアメリカに帰ったはずだ。


どうしてまだこんなところに…。


嫌な汗が背中を流れる。


「愁」


俺は恐る恐る親父を振り返った。


「お前は今日から高屋家の正式な後継者だ」


ゆっくりと…。


…別れの歯車は回り始めた。


< 380 / 390 >

この作品をシェア

pagetop