リセット
「説明は追い追い。どうせすぐ行かれるんでしょうから。」

「どれにします?」
男はにんまりとして本棚を指差した。

「あの、だからよくわからないのですが…」

アイは男の上着の胸ポケットを見て目を見開いた。

そこには鈍く光る古そうな鋏が忍んでいた。

あぁ最悪だ。

これは新手の強盗か誘拐か何かなんだ。

おとなしく従っておいた方がいいのか?

それともこの後ろ手にあるドアから逃げようか?

相手は1人じゃないかもしれない。

ここは下手に動くよりまず話しを合わせつつ脱出方法を考えよう。


「あの…私はどれでも良いのであなたが決めて下さいます?」

「そうですか。では前回が4段目の5冊目だったので今回は5段目あたりを攻めてみましょうか。」

「はぁ。…それでお願いします。」

男は正面の本棚の上から5段目の1番左の本を取り出した。

真新しい何やら洋書の様な洒落た表紙の本だ。

そしてその瞬間男の手が胸ポケットへ伸びた。


「やだっ!」


アイは両手で顔を押さえた。
とっさのことでそれしか身体が反応できなかったのだ。

と同時に男は澄ました顔でページを鋏で切り始めた。

「とりあえず7ページ7日分。良さそうなら私が適当に追加しておきますから。」

そして切り取ったページを枕の下に潜らせた。

「いってらっしゃい。ではまた。」

男に促されるままアイはまたベッドに横になった。

猛烈な眠気がアイを襲った。


あぁ駄目だ。


ここから逃げなきゃいけないのに。


お弁当だってまだ…
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