ミモザの呼ぶ声
 一年で最も寒い季節になった。
 今朝も朝から、吐息が白い。
 ちょっと早めに出てみたら、だれより早く、奴がいて、自分の絵を挟み込んでたイーゼルを磨いていた。ご苦労なことだ。だがオマエのその欺瞞も偽善もオレは赦さん。
 オレはたった数名の使う、たっぷりとはゆかないスペースで、思いっきりイーゼルの束を倒した。もちろん奴の姿は床にへばってた。下敷きだ。アトリエに入って来ようとした奴らも、「今日は休み」と言いおくと、無視して出て行った。
 コレを放っておいてやったらどうだろう。オレはその空想に戦慄した。
 こいつが、このまま明日、朝を迎えたら? 凍って死ぬかもしれないな。誰かが通報でもしやがったらオレ、極悪人じゃねえ? しまったね。犯罪者になる前に、美優に会っておこうか。
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