ココとマシロ
ホッと胸を撫で下ろした笑華だったが、その一方でココの心中は穏やかではなかった。
初めてマシロと会った時。
あの時は、今まで見たことのないくらい大きな影が、まるで人のような形をして一箇所にとどまっていた。そしてその目の前を通り過ぎようとした途端ーー突然影が、襲いかかってきたのだ。
幾度かある程度の影では経験のあるそれ。しかしその日のこの大きさは初めてで、もしこのまま襲われでもしたら…そう思うと足はとにかく速く、とにかく前へと動いていた。
そして必死に逃げ惑い、体力も限界が近づいたその時だった。もうダメだと諦め掛けたその時、気がついたら目の前に真っ白な背中ーーマシロが、いた。そしてそのままマシロに助けられたのだ。
これがマシロとの出会いと同時に、今までで一番怖い思いをした思い出。それが今、一瞬にして蘇った。
あれは…あの姿は、人間だった。
それはあの時と同じだと、野道の向こうに見えた影にココはぶるりと身震いする。でも…少し離れて冷静になってみると、なんだかおかしいなとココは疑問を抱くようになった。確か、あの道の先は真っ暗だった。暗闇がずっと続いて、道の奥の方なんて消えていくような、そんな風にも見えたのに…それなのになんでだろう。なんで真っ暗だったのに人間みたいだって分かったんだろう?
あの時本当に自分は見えたのかなと、先に見えてきたランプの光を見つめながら思う。見えたとしたら本当にそれはあそこにいたのかなと、そんな事を思うとなんだかそわそわして落ち着かなかった。