先輩と私。
「顔色が悪いぞ?」
「実は…、まぁ…。 嫌いなんですけど…」
「そうだったんだ! でもなんで? キレイじゃん」
確かにキレイ。
でも…。
「私、名前が“桜”って言うんです。 桜ってありがちな名前で…。 その名前の由来の植物だから…っていう理由で」
「そっか」
先輩、こういう女子はイヤなのかな。
ぎゅっと目をつぶった。
「桜かぁ、いい名前じゃん」
「え…?」
私はうつむいていた顔をバッとあげた。
「そんなこと気にしてんの? ありがちな名前でも、存在は世界で1つだぞ? 同じ名前はいたとしても、同じ人間はいない」
そういわれて、今までの自分が恥ずかしくなった。
「桜は、桜でいいんだよ」
“桜”…。
今、名前で…!
「俺そろそろ教室戻るから。 また会おうな、桜♪」
「あっ、はい!」
私は立ち上がって、先輩の姿が見えなくなるまで手を振った。
なんだろ…、この、ちょっとモヤモヤした気持ち。
今までに感じたことのないような気持ち。