押しかけ×執事
あたしとお母さん。
　あたしのお父さんは、あたしがお母さんのお腹の中にいるときにいなくなったって聞いた。

　19歳の若さであたしを産んだお母さんは、女手ひとつであたしを懸命に育ててくれたらしい。

　だから、物心ついた頃からあたしはお母さんと２人。

　今思えば、生活は質素で贅沢なんか出来なかったけれど、お母さんはあたしに優しくて、すっごく明るい家庭だった。

　あたしを育ててくれるために、朝から晩まで働き詰めだったお母さん――それでも、いつでも笑顔であたしの前にいてくれたっけ。

　そんなお母さんがあたしは大好きで、早く手助けが出来るようになりたいって願っていた。

　小さい頃から家の台所に立って、ご飯を作ったり家事をお手伝いしたり、と。

　自分の出来る範囲で頑張ってお母さんをお手伝いしてきた。

　それから、学校の勉強も……かなり苦手だけど……なんとか、頑張って。

　お母さんの負担にならないように、近くの公立の高校に合格。

　高校に入ったら、バイトも始めてお母さんをもっと楽にさせてあげる――

　あたしの心は色んなことで膨らみ、踊った。

　――でも。

　そんな希望も、お母さんが病魔に襲われるまでのわずかな間だけだった。
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