押しかけ×執事
 それからあたしは、毎日病院に寝泊りする生活に変えた。

 検査入院、っていう名目で倒れた日から入院してたお母さんを心配したのもあるし、唯一の肉親であるお母さんのそばを離れたくなかったっていう理由もあったと思う。

 幸いにも、そこから中学へはバスで通学できる範囲だったし、学校の先生も訳を話したら許可してくれた。

 ずっと働き詰めで、長い時間を一緒にいることなんてほとんどなかったから、あたし自身も無意識でお母さんに甘えたいって言う気持ちもあったのかもしれない。

 お母さんも笑いながら「しょうのない子ね」なんて言いつつも、あたしが一緒にいることを喜んでくれていた。

「退院したら、一緒にショッピングに行こうね、お母さん」

「あら、いいわね」

「一緒に使えるワンピースや、カバンとかを買おうね」

「うん、そうね。楽しみだわ」

 あの時お母さんとたくさん話した内容は、今でもあたしの胸の中で幸せな思い出として残っている。

 まだこのときのあたしは本当のことは知らされていなかったけれど、心の奥底の「直感」が、あたしをお母さんと一緒にいさせたのかもしれない。

 小さな頃は当たり前のようにたくさん一緒にいたあの幸せな時間を、もう一度記憶の中に刻み込むように。

 そう思うと――今でも、あたしの胸は苦しくなる。

 結局、お母さんと約束したショッピングは、叶わなかった。
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