三日月ロマンチカ 【短編】


瞬きをしたときだった。


なんの前触れもなく、光がパッと消えた。


同時に写真の群れとアルバムも消え去った。


暗闇の中におれはぽつんと取り残される。


目が開かない。


身体に力が一切入らない。


いつの間にか瞼の向こう側の“おれ”は“おれ”になっていた。



―――ああ、死ぬ、のか。



また漠然と黒い感情が流れ込んでくる。


どろ、どろ。


これが赤ければ血と同じだな。


冷静にそう笑えるくらい、おれの心は鎮まり返っている。


……やっぱり土砂降りに打たれたら弱るよなぁ…。


いくらおれ様でもさぁ……だよなぁ…。



「ゆいな、」



闇がだんだん小さくなっていく。


真ん中に立ち竦むおれの周りからじわじわと。


おれを円の中心にして、闇の半径は小さくなっていく。



―――飲み込まれたら、終わりだ。



脳内で警鐘が鳴る。


目は開かない。


身体は動かない。


無理だ。


むり、なんだ。


でも。


でも。


維奈。



最後の―――がお前なら、おれも幸せだったよな。




「……頑張れよ、」




こんなおれみたいなやつに言われても説得力ないだろうけどな。


小さく笑い、おれは“瞳”を閉ざした。


身体がゆっくりと引き摺りこまれる。


“向こう側”へと。


意識がぷつり、と途切れる直前に。










―――聞こえるはずのない声が、雨音に混じって聞こえた気がした。

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