あの日のキスを、きみに。
*07:約束のキス

「俺、来月からアメリカに行くことになったんだ。」


情事後特有のけだるさの中、隣に寝転ぶ彼が不意に発した一言に、微睡みかけていた私の意識は一気に覚醒した。


「え、ちょっと。アメリカって、何?」

「ああ。親父の会社を継ぐには、向こうでの研修がどうしても必要だから。」


聞いていない。
今までそんなこと、一度だって。

そりゃあ、彼が大企業の社長の一人息子で、将来的にはいつか、彼が社長の座につくことはわかっていたけれど。

いきなりアメリカへ行くだなんて、そんな…


「……どのくらい?」

「短くて、3年。」

「3年……」


短くて3年。長ければそれ以上、いつになるかわからない。

なら彼は一体、私とのことはどうするつもりなのだろう。まさか別れようだなんて、そう言い出しはしないだろうか。

一抹の不安が、胸をよぎる。
考えたくも無い彼との別れが、胸を締め付けた。

でも私に、彼の将来を潰す権利なんてない。それ以前に、私に彼の将来を潰すつもりなんてない。

だから彼が別れようと言えば、きっと私は何も言わず彼に従うだろう。
彼の障害になるくらいなら、私は彼の傍に居ない方がいいのだから。


「…――だから、さ……、」


気まずい数秒間の沈黙の後、彼はおもむろにそう切り出した。対する私は必死に不安を押し殺し、何とか平然を保って続きに耳を傾ける。


「だから、待っててくれねぇかな。」

「……え?」

「いつになるか、ハッキリわかんねぇけど。俺が帰ってくるまで、俺のこと。」


けれど発された言葉に、一瞬思考が追いつかなかった。だって、それって……


「私が、待ってていいの?」

「ああ。お前だから、待っててほしいんだよ。」


そう言って優しく微笑んだ彼は、私に小さなキスを落とした。





  約束のキス


  ( 明るい未来を )
  ( 歩むのはきみと。 )
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