たからもの
折笠に促され、翼は隆人と教卓の前に立って司会進行を務める事になった。

重い腰を上げる。
振りかえりはしなかったが、今日香が「よかったね、超チャンスじゃん」と小声で呟いていた。


確かにそうなのだけれど、好きな人と並んでクラスメイトの前に立つ、というのは恥ずかしいものがあった。
それでなくても人前に立つ事は苦手なのに。


挙句の果てには折笠が職員室に忘れ物をしたと言い、戻ってくるまで自由時間になった。翼は教卓の前に立たされたまま、放置される。

そんな気も知らずに、クラスメイトたちは自由にお喋りに明け暮れていた。
今日香も後ろの席の男子と楽しそうに盛り上がっている。


隆人が隣に立っている事が気まずくて、翼は自分の席に戻ろうとした。
だけど、せっかくのチャンス。
今なら他愛無い会話をしていても、誰も不自然には思わないだろう。


何か、何か会話……。


頭の中が爆発しそうだった。
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