通りすがりのイケメンさん
「その日は、ちょうど部屋の電気が切れてて、
小さいオレンジの電球が点かなかったの」

「・・・」

「・・・さっき消さないでって言ったのは、
それを思い出しちゃったから」

「・・・」

「あの人を無視することが、
あの人への精一杯の反抗だったの」


神崎優輔は何も言わず、より強くあたしを抱き締めた。


「次の日、昨晩の電話は脅しなんかじゃなかった。
本当にお父さんに言ったの。
しかもあることないこと付け足して」

「・・・」


ここまでくれば、涙はもう出ない。
声の震えも止まる。


「案の定お父さんはあたしをひっぱたく。
手加減もなしでだよ?
しかもこんなに可愛い女の子の顔に」


あたしは自嘲するように笑う。

可愛くもないくせにふざけて言ってみる。


「それを後ろで見ていたあの人は、
それはそれは楽しそうに笑ってた」

「・・・」

「あたしはそれに耐え続けるしかなかったの」

「・・・」

「8年間だよ?」

「・・・」

「あんなのに耐え続けた自分を誉めてあげたいくらい」

「・・・」

「ずっとね、"こんな人達なんかに負けない"
って思ってきたの」

「・・・」

「でも、今日逃げちゃった」

「・・・」
< 44 / 45 >

この作品をシェア

pagetop