僕等の軌跡

「あーっ!僕明日暇なんですよねぇ。朝から夕方までずっと一人で事務所番。沢山先生ーっ。明日もし間違えて自習に来た子って追い返すの可哀相ですよね??」

なんだか少し違和感のある感じで、沢山先生に話しかけた中川先生。

「そうだな…自習くらいさせてやってもいいんじゃないの?」
「ん…?相原さんそんなとこにいたんですか?」

え?中川先生私がここにいるの普通に知ってたよね…。
わざとらしく笑って目でかるくウインクする中川先生。
そっか…そういう事なんだね。

「先生ってば何してるんですかっ。」

それは中川先生からの"きていいよ"の合図。


「相原そろそろ帰るぞ。家まで送るから支度しろよ。」

沢山先生が仕事を片付け、コートを来て玄関へ。
帰る時間だ。

「あ、はい…。えっとじゃあ中川先生、ありがとうございました。」
「はい、さようなら。気をつけて。」

暗い夜道。
塾からたった5分ほどの道ですが沢山先生はいつも送って下さいます。
なぜかというとこのあたりは不審者が多く、私は現在ストーカー被害のようなものにあっているからです。

「ほらこれ…。」

沢山先生は少しだけ食べたチョコスティックパンを差し出す。

「えっそんないつも…悪いです。」
「いいから。帰ってもご飯ないんだろ?時間も時間だし、家色々あるみたいだし。」
「ありがとう…ございます。」

あんまり断るのも沢山先生の好意に申し訳ないと思い、私はパンを受け取った。

「まぁ残り物だけどな!笑」

先生…私知ってるよ?
いつもチョコスティックパン買って少しだけ食べて残してくれる事。
残り物なんかじゃなく残らせた物なんでしょう?
きゅぅって胸が締め付けられた。
申し訳なさと切なさから。


言葉にできない想い。この人は駄目なんだ。
"先生"っていう立場の人だからってだけじゃあない…。
この人は好きになっちゃいけない人なの。
どうしてかはわかんないけどそう思う。
だから沢山先生の優しさは苦しいのです。

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