EGOISTE

「今日……」


俺はちらりと歌南を振り返った。


歌南はどこでそんな仕草を身に着けてきたのか、ちょっと大げさに肩をすくめてみせた。


「わり…今日はちょっと……」



『そう…ごめんなさい。急に言い出して。またの機会にするわ』


「……ち、千夏……」


プツ…ツーツー……


電話はそっけなく切れた。


まるで千夏の気持ちを代弁しているかのようだった。


「くそっ!」


なんてタイミングが悪いんだ!!


俺は運の悪さを呪った。


八つ当たりでガンっとハンドルに腕を打ちつける。


「彼女?」


歌南が興味深そうな顔で身を乗り出してきた。


「お前には関係ねぇだろ」


歌南にも八つ当たりして、俺は睨んだ。


「まぁ確かにそうね。あたしには関係のないことだわ」


ホントに興味がなさそうに歌南は姿勢を正した。



ホント……俺、何やってんだろ…



ごろりと再び背中をシートに預けると、フロンガラスの向こう側でビルとビルの間から歩道橋が見えた。



何でそこに目がいったのかは謎だったけど、そのとき何か思うものがあったとしか言いようがない。






ぼんやりと歩道橋を見て、俺は目を開いた。










< 145 / 355 >

この作品をシェア

pagetop