EGOISTE

過去





――――


20年前の……そのときも夏だった。


俺がまだ5歳のときだった。


その日は真夏だと言うのに、妙に空気がひんやりと澄んでいた。


明朝……空がまだ明るくなる前。



パタン



静かに扉を閉める音がして、俺は目を覚ました。


眠りが浅かったわけではない、ただ本当にその音は俺の耳に大きく響いたんだ。


後から考えると、これが虫の知らせってヤツだったのか。





パタパタパタ……



スリッパが床を駆ける音がして、俺はいぶかしんだ。


ひどく慌ててる。


何だろう?


本当に小さな疑問だったのだ。






ガチャ


自室の扉を開けると、母親とばっちり目が合ってしまった。


はっとした様子で目を開いている。


母はアイボリーホワイトの上品なスーツ姿で、大きなボストンバッグを提げていた。


「おかあさん、どこかいくの?」


どう見ても外出着の母親にそう問いただしたっけ?





「ごめんね。誠人。ごめんね」


母親はそれだけ言うと、ぱっと振り返り玄関口へと走っていった。







< 21 / 355 >

この作品をシェア

pagetop