EGOISTE

それ以来母親とは会っていない。


今頃どこで何やってんのか。


生きてるのか死んでるのかさえ分からない。





母親は5歳になった俺と父親を残して、一人男と蒸発した。




当時は“じょうはつ”の意味すら知らなかった。


母は、何故去っていったのか。


後に残された手紙には「愛する人と一緒になります」と一言だけ書かれていた。





この頃の俺は“愛”が何を意味するのかさえ知らない、まだほんのガキだったんだ。



愛は人を狂わせる。


愛するが故に、他のものを厭わない。まるで物のように簡単に捨てることができる。


愛するが故に、未来も捨てられる。




そう、全て捨てることができるんだ。









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