EGOISTE


高田さんが帰っていくと、鬼頭は彼女の腰掛けていたパイプ椅子に腰を降ろした。


「さっきの、先生の新しい彼女?」


「違げぇよ。俺の病院で働いてるただのナース」


「ふぅん。先生のもろ好みだと思ったのに」


ギク…


鋭いな…。


「先生って見かけに寄らず、結構おとなしめの女の人好きになるよね。和風美人っての??」


ギクギク…


「そうかもしれないけど、彼女とは別にどうこうなりたいわけじゃねぇよ。向こうだってその気はなさそうだし」


「それもそうだね」


鬼頭はさらりと言う。


お前…俺にどうして欲しいわけ??


「あ、朝顔のしおり!きれいだね」


鬼頭は俺の手の中にあるしおりを目ざとく見つけた。


「あ~そうそう、お前源氏物語読んでたじゃん?あれ今でも持ってるか?」


「持ち歩いてはないけど、家に行けばあるよ」


「じゃ、今度貸して。朝顔って女出てきたよな。確か…町娘だっけ??」


「それは夕顔。朝顔は光源氏の従姉弟だよ」


「へ、へぇさすが詳しいな…」


「ちなみに夕顔と朝顔じゃ全然花も違うんだから」と鬼頭は目を細めた。


「そうなの?」


「そうだよ」


そんなことも知らないの?といいたげだ。


悪かったな。男で花が詳しいやつなんていねぇよ。


「でも先生に源氏物語って何か不釣合い」


そう言って鬼頭は身を乗り出し、俺をじっと覗き込んだ。








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