EGOISTE
「何だ……寝てるのか…」
「起きないね」
楠の声もする。
俺は何とか起き上がりたかった。
楠、あれからどうなった?楠 明良の浮気相手には勝ったのか??
聞きたい事はたくさんあったのに、俺は目を開けられなかった。
それどころか意識が混濁して、現実か夢かの区別もつかない。
この声は―――現実なのか?
まるで眠りの森のオーロラ姫になった気分だ。
眠りの森の美女は、以前ディズニー映画で見た。あれは確か…千夏と一緒にDVDを借りて見たんだっけね…
もうずっと前の話。
「珍しいね。いつもならちょっとのことで起きるのに」
鬼頭の相変わらず淡々とした声が聞こえる。
「へぇ。一度寝たらそうそう起きなさそうなタイプなのに」
「そうでもないよ。普段は年寄りみたいに朝早いの」
悪かったな!年寄りみたいで!!
「水月の方が寝起き悪いよ~、超低血圧」
「うっそ!意外♪」
鬼頭と楠は俺そっちのけで勝手に噂話に興じている。
「でも機嫌悪い神代先生って何か想像できなぁい」
だろうな。
でもあいつの寝起きの悪さは超一流。にこりともしねぇの。まるで別人だぜ?
話しかけても返事もないし。っつても最近はどうかしんねぇけど。
俺が知ってるのは学生の頃の話だ。
今は鬼頭が、水月の寝起きを知るほど
近くに居るってことだな。
いつの間にかあいつの近くに居るのが、俺じゃない違う人間になっている。
恋人でもないし、そんなん変わるのは当たり前だけど
なんとなく寂しい気もする……