EGOISTE


「何だ……寝てるのか…」


「起きないね」


楠の声もする。


俺は何とか起き上がりたかった。


楠、あれからどうなった?楠 明良の浮気相手には勝ったのか??


聞きたい事はたくさんあったのに、俺は目を開けられなかった。


それどころか意識が混濁して、現実か夢かの区別もつかない。





この声は―――現実なのか?




まるで眠りの森のオーロラ姫になった気分だ。


眠りの森の美女は、以前ディズニー映画で見た。あれは確か…千夏と一緒にDVDを借りて見たんだっけね…


もうずっと前の話。


「珍しいね。いつもならちょっとのことで起きるのに」


鬼頭の相変わらず淡々とした声が聞こえる。


「へぇ。一度寝たらそうそう起きなさそうなタイプなのに」


「そうでもないよ。普段は年寄りみたいに朝早いの」


悪かったな!年寄りみたいで!!


「水月の方が寝起き悪いよ~、超低血圧」


「うっそ!意外♪」


鬼頭と楠は俺そっちのけで勝手に噂話に興じている。


「でも機嫌悪い神代先生って何か想像できなぁい」


だろうな。


でもあいつの寝起きの悪さは超一流。にこりともしねぇの。まるで別人だぜ?


話しかけても返事もないし。っつても最近はどうかしんねぇけど。


俺が知ってるのは学生の頃の話だ。




今は鬼頭が、水月の寝起きを知るほど




近くに居るってことだな。




いつの間にかあいつの近くに居るのが、俺じゃない違う人間になっている。


恋人でもないし、そんなん変わるのは当たり前だけど





なんとなく寂しい気もする……








< 266 / 355 >

この作品をシェア

pagetop