EGOISTE


「なぁ鬼頭、あいつ何で戻ってきたのかなぁ」


「さぁ…望郷の念ってヤツじゃない?」


“うん”とは言わなかった。


「望郷の念…ねぇ。でもあいつの故郷は北海道だ。ここに戻ってきた理由にならねぇじゃん」




「望郷の念だよ。でもこの場合、思うのは場所じゃなくて、人。


つまりは先生ってこと。


歌南さんは、先生に会いたかったんだよ」






鬼頭にしちゃやけにロマンチックなことを言う…



でもなるほどな。そう考えるのが一番妥当なのかもしれないな…




昔捨てた男に会いたがる女……身勝手で傲慢な女。


愛していたけど、それ以上の憎しみを俺に植え付けた女。


俺はあいつに愛することも、憎むことも教えてもらった。


良いことも、悪いことも……


そんなことを考えてると、鬼頭の白い手が俺の手にそっと重なった。


「大丈夫だよ」


そんなことを言われてる気がした。


何が大丈夫なんだよ?俺が今何を思ってるか、分かるのかよ。そう思ったけど、俺の手は鬼頭の小さな手をそっと握り返していた。



それから十五分ほど経って、水月が戻ってきた。





ケータイを握りしめた腕は強張って、顔色は紙のように白かった。





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