EGOISTE
「おまっ!もう面会時間過ぎてるぞっ!?どうやって入った!!」
「そんなんどうにだってなるよ」とさらりと鬼頭。
幸いにも隣のベッドのじいちゃんは熟睡中だから、いいようなもんを…
病院のセキュリティシステムどうなってんだよ。
俺は要らない心配しつつも、鬼頭の様子がいつもと違うことに気付いた。
「……何か、あったのか?」
鬼頭はカーテンを閉めると、俺の元へ駆け寄ってきた。
「先生、歌南さんからさっきあたしのところに連絡がきた」
「………!?」
俺は目を開いた。
「……何で…お前のところに…そのこと、水月に言ったか?」
鬼頭はゆるゆると首を横に振った。
「何で?」
「突然のことでびっくりして。それに歌南さん、水月には言わないでって言ったの」
「それで俺のところに?」
「だってどうすればいいのか分かんないもん」
そう言って鬼頭はケータイをぎゅっと握りしめた。
鬼頭にしては珍しく、判断が鈍っている。
水月に相談するべきだったが、俺のところに来たのは正解かも。
「で、あいつは何て?」
「今、海の近くに居るって。突然のことだったから、あたし事情を知らない振りして会話を伸ばしたの」
まるで交渉人のようだ。お前の頭がいいことに感服するよ。
「で?」
「一週間ぐらい帰らないつもりだって。それから歌南さんあたしに……
腕の良い産婦人科を知らないかって
聞いてきた…」