EGOISTE
「お洋服失礼しますね」
控えていたナースの一人が患者の衣服に手をかけ、ほんのちょっと上にあげる。
淡いブルーのブラがちらりと見えた。
下着もなかなか、清楚でよろしい。
なんて考えてる場合じゃない。
俺は首からかけた聴診器で診断した。
ふむ、心音、呼吸音は多少早いが、心雑音、頚動脈雑音は特になし。
俺が真剣にバイノーラル(耳管)に聞き入っていたからかな、患者が不安そうに俺を見下ろした。
こう見えても仕事中は真面目なんだ。
俺はにっこり笑ってチェストピース(皮膚にあてる部分)を引っ込めた。
「特に異常はないですよ。おそらく夏風邪でしょう。3日分のお薬を出しておきます。それでも良くならなかったら、もう一度お越しください」
服を直しなら患者は頭を下げた。
「ありがとうございます」
「「お大事に」」
俺とナースの声がきれいに重なって、患者を待合室へと送り出す。
そんなことの繰り返しが延々続く。
若い患者(それも女)は珍しい。大抵は年寄りか、子供が多い。
みんな俺を見て一様に驚くものだ。
「あらあら、亡くなったおじいさんの若い頃にそっくり」とぽっと顔を染めたばぁちゃんもいたし、
中には「大先生じゃないと、診てもらわん」とごねるじじぃもいた。
そんなこんなで、あっという間に夜も8時になっていた。