EGOISTE

「お洋服失礼しますね」


控えていたナースの一人が患者の衣服に手をかけ、ほんのちょっと上にあげる。


淡いブルーのブラがちらりと見えた。


下着もなかなか、清楚でよろしい。


なんて考えてる場合じゃない。


俺は首からかけた聴診器で診断した。


ふむ、心音、呼吸音は多少早いが、心雑音、頚動脈雑音は特になし。


俺が真剣にバイノーラル(耳管)に聞き入っていたからかな、患者が不安そうに俺を見下ろした。


こう見えても仕事中は真面目なんだ。


俺はにっこり笑ってチェストピース(皮膚にあてる部分)を引っ込めた。


「特に異常はないですよ。おそらく夏風邪でしょう。3日分のお薬を出しておきます。それでも良くならなかったら、もう一度お越しください」


服を直しなら患者は頭を下げた。


「ありがとうございます」


「「お大事に」」


俺とナースの声がきれいに重なって、患者を待合室へと送り出す。




そんなことの繰り返しが延々続く。


若い患者(それも女)は珍しい。大抵は年寄りか、子供が多い。


みんな俺を見て一様に驚くものだ。


「あらあら、亡くなったおじいさんの若い頃にそっくり」とぽっと顔を染めたばぁちゃんもいたし、


中には「大先生じゃないと、診てもらわん」とごねるじじぃもいた。



そんなこんなで、あっという間に夜も8時になっていた。










< 29 / 355 >

この作品をシェア

pagetop