EGOISTE
「お大事に~」
最後の患者を送り出すと、俺は首から聴診器を外した。
半日とは言え、普段聴診器なんて提げてないから、肩が凝る。
個人医ってのもなかなか大変だ。患者の愚痴に付き合わされたり、過剰に容態を心配する患者を宥めたり……
学校でクソガキどものお守りをしていたほうがまだましだ。
「若先生、お疲れ様です」
可愛らしいナースがひょいと顔を出し、麦茶の入ったグラスを机の上に置いた。
「どうも♪」
ここのナースたちは親父のことを“大先生(オオセンセイ)”俺のことを“若先生”と呼ぶ。
“先生”なんて普段呼びなれてるけど、ここの“先生”はちょっと意味が違う。
俺がこの「林内科クリニック」の次期医院長を継ぐという意味を含ませてあり、その言葉の裏には多大な期待と、責任を感じるからだ。
俺はメガネを取ると、眉間を指でつまみ揉み解した。
こんな仕草を鬼頭に見られたらまたじじくさいとか言われるだろうなぁ。
「だいぶお疲れのようですね。肩、お揉みしましょうか?」
可愛らしいナースが、にこにこ笑顔で俺を覗き込んでくる。
俺は素早くメガネをかけ直した。
「いえ、結構です」
にこにこ笑顔で答えたけれど、暗に近づくなと警告している。
可愛らしいナースはちょっと唇を尖らせたが、それでもめげる様子もなく、
「じゃ、マッサージしてほしくなりましたらいつでも呼んでくさいね♪」
と言って去って行った。