EGOISTE


カードキーを受け取ったはいいが、それをどう渡すべきか悩んでいると、


鬼頭が一枚のカードを俺の手からさっと抜き取った。


そして水月と歌南の腕を取ると、「じゃ、あたしらこっちの部屋にするから」とさらりと言う。


「え!ちょっと!!」


俺を千夏と二人きりにするかぁ!?


「千夏さんに看病してもらいなよ」


そう言って俺の背中を押す。


え…ちょっと看病て……





「伝えたいこと、言いたいことちゃんと言った方がいいよ。


歌南さんのときみたいに」





鬼頭の囁くような声を聞いて、俺は振り返った。


鬼頭はほんの少しだけ穏やかな微笑みを浮かべていた。


ぎゅぅと部屋に押し込められ、パタンとドアが閉まると、俺の顔からサーーーと血の気が引いた。


恐る恐る振り返ると、千夏はマイペースに部屋の電気をつけている。


千夏は俺と違って常識人だから、この意見に抗議するかと思いきや何も言わなかった。


部屋の照明に照らし出された千夏の横顔はつるりと無表情で、何も読み取れない。


「疲れちゃった。先シャワー借りるわね」


千夏が苦笑しながらも、着ていたカーディガンを脱ぐ。


その下は白いナース服だった。


それを見て急に現実に引き戻された。


千夏は夜勤を抜け出してきたのだ。病院から何か言われないだろうか。


心配だったけれど、この状況ではどうしようもできない。


俺は黙って、彼女がバスルームに入っていくのを見送るしかなかった。





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