EGOISTE

「誠人…」


千夏は白い小振りの鞄を手の中で持ち替えた。


「千夏の彼氏~?あんたらいつもラブラブだねぇ」


女性陣ははやしたてながらも、「じゃ、ごゆっくり~♪」なんて言ってみんなわらわらと去っていく。


あとに残されたのは俺たち二人だけ。





「今日……約束してたっけ?」


千夏が僅かに俯きながら、口火を切った。


「いんや。でもどうしても会って話したくて」


俺の言葉に千夏はさっと顔を上げた。


辺りが暗かったからかな、千夏の顔色がどことなく冴えないように見えたのは。





「俺が悪かった」




かっこわりぃな。


女に頭を下げるのは。


そう言えば歌南のときは俺たちしょっちゅう衝突して喧嘩してた。


だけどいつも歌南の方が、何事も無かったかのように接してくるもんだから、こっちも拍子抜けして、怒ってる気持ちがいつもあやふやに流されてたっけ。


だから俺は喧嘩の終止符の打ち方が分からない。




ただ、千夏を怒らせたことには変わりないし、俺が悪いのは重々承知の上だ。



謝るしかねぇだろ。




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