EGOISTE

―――

「酒、酒~っと」


俺がシンクの下の棚を漁ってると、日本酒やら焼酎の瓶がいっぱい出てきた。


千夏と飲もうと思って珍しいのを買い揃えていたんだ。


彼女は意外にもうわばみだ。俺よりも強い。


洋酒より日本の酒が好きだと言ったことを思い出す。


これらはもうしばらくシンクの下で眠ってもらいそうになる。


「アル中」


キッチンで水を飲んでいた鬼頭がぼそりと言った。


「うるっせーな。飲まなきゃやってられねぇんだよ。お前だってあと5年もすりゃ酒のうまさに気づくはずだ」


てか、こいつホントに今日も来やがった。


「先生って早死にしそうだよね」


ミネラルウォーターのペットボトルを冷蔵庫にしまいながら鬼頭が言った。


「お酒にタバコ。体に悪いものばっかり。医者のくせに」


「水月だってそうだろ?」


「……まぁね」


鬼頭はつまらなさそうに呟いた。


「大体人生なんて短いもんだし、やれること、楽しいことやっておかなきゃ損だろ?」



「刹那的だね」


鬼頭は形の良い目を細めた。




「何とでも言え」






俺は深緑色の日本酒ボトルを取り出した。


ラベルには“国士無双(コクシムソウ)”と書いてある。


国史の中で並ぶ者はいない。天下第一の人物をさす言葉で、麻雀の役満貫の一つでもある。



俺はこの言葉が好きだった。


そう言えば、神代姉弟はやたらと麻雀が強かった。


ボロ負けして、いくらかすったっけ。





最近は人数も揃わなくなったし、いつの間にか遠のいていたから忘れかけていたけど。


こんなこと思い出すのはやっぱり歌南の存在のせいかな。










< 41 / 355 >

この作品をシェア

pagetop