夕闇の旋律
悠久の時の中に
1月15日

今日は、悠矢の担当医が病院に来る日だった。

昼に悠矢の病室へ訪れたとき、悠矢の診察をしている医者と鉢合わせた。

「野崎先生」

「ん?なんだ、久瀬じゃないか」

その悠矢の担当医は若い。なんでも天才的な魔法学者でもあるらしい、が……。

「けけ。今日もかいがいしく旦那のもとへ通ってんのか。足を酷使してまで……なぁ?」

性格が悪い。

「むー!!」

ちなみに今のは詩音がうなった声ではなく、悠矢のうなり声だ。

後ろ手に縄で縛られていて猿轡を噛まされている。見えないが、足まで縛られていそうだ。

何があったと言いたい。

「聞けよ詩音。こいつ俺から逃げるんだぜ?あげくには魔法すら使いやがる。ま、耳栓してたから問題なかったがな」

けけけ、と野崎は笑った。

詩音ははぁ、とため息のような返事をして悠矢を同情の目で見つめた。

――助けてくれ、詩音!

悠矢の目が切実にそう言っている。

――……時には諦めも肝心だよ、悠矢くん。

詩音はそう目で言い返した。

そのかたわら、野崎はがちゃがちゃと怪しげな音を立てる何かを取り出していた。

医療器具にはとても見えない。

「ん?これじゃ脱げねぇな。仕方ない、裁つか」

それは病院のものですよ、先生。

そう言えなかったのは許してほしい。
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