夕闇の旋律
野崎は黙っている。

「先生は医者ではなく研究者でしょう?それも、声帯に宿る魔法を調べる」

詩音は扉にかけた鍵をポケットにしまった。

「なら、知ってますよね。歌わなくても、本当は魔法が使えるって。とは言っても、事前に歌って術式を組む必要があるのですが……」

ふわりと風が詩音を包み、詩音の周りが青く発光した。

『人形を付与』

詩音が呟いたとたん、野崎は意思に反して立ち上がり、扉から離れた。

そして屋上に設置されたベンチの前でまた膝をついた。

野崎は驚いたように詩音を見上げた。

詩音は逆に、無表情に野崎を見下ろす。

「今のがそうです。実際に聞いたことはないはずです。これは本当に数人、魔力を『創生』できるほどの力を持った人しか使えないんですから」

詩音は野崎の返事を期待していないのか、すぐに続けた。

「今のは、私が操る人形を先生と同化、性質の付与をする魔法です。私の部屋で、同じ人形が先生と同じ動きをしたはずですよ」

「普通じゃない……」

「そうですね。普通じゃありません……私みたいな、強い属性を宿した人間は……そして、その最たるものが、悠矢くんです」

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