クリスマス・ハネムーン【ML】
 僕の必死の訴えに、佐藤は、ようやくはっとして頷くと。

 急いで、ベッドサイドに置いてあった薬と水を持ち。

 ハニーの口に、含ませようとした。

 けれども。

 「霧谷さんが……飲めません……っ!」

 慌てた声に、僕は、重い瞼を見開く。

 すると、佐藤がいくらやっても、薬も、水もハニーの口の端から流れて落ちてしまうのが見えた。

 ハニーの意識レベルが下がりすぎて……もう、普通には飲めないんだ……!

 どうしても、ハニーが薬を飲まない。

 その事実に。

 僕は、奥歯をかみしめると、震える声で言った。

「……さとう……
 ……ハニーに……口づけて……」

「……は?」

「口……うつしで……薬を……のませて……やって……」

「そそそそそそんなこと!」

 できませんっ!

 ……と、佐藤は絶叫した。

 岩井と僕との情事の直後で、部屋にはおかしな雰囲気が、漂っていた。

 例えば、それが、色恋とは関係なく。

 純粋な行為だとしても。

 何か、少しのきっかけで良からぬ方に転がりそうな、危うい、妖しい空気の中。

 薬を喉に滑り込ますほど、深いくちづけなんてしたら。

 一度は、諦めた。といった佐藤のココロにどんな変化が起こるかなんて、判りすぎることだった。

 けれども。

 ハニーには、時間が無く。

 僕は、ちっともカラダを動かすことなんて、できなかった。

 僕は、もう一度奥歯をかみしめると、ようやく声を出した。

「さとう……あんたは……ハニーのコトを……好きだった、って言ってたよね?
 ……なのに……いまさら……男同士で……気持ち悪い……だのって……言えないよね……?」

「言いませんよっ!
 わたしが、嫌なのは。
 そんなことじゃないです!」

 佐藤も『予感』を敏感に感じていたらしかった。

 それを、あえて無視して、僕は佐藤に願う。

「だったら……たのむよ……時間が……無いんだ」

「……う」
 


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