クリスマス・ハネムーン【ML】
「岩井が逮捕されて、そのあと。
 海岸で、君は、私になんとささやいて、くれたっけ?
 ……その、君が言ってくれた、言葉を……私なりに解釈したんだ」

 君の胸が苦しいのは。

 息が出来なくなってしまったのは、私の合成した、毒ガスのせいだよ、と。

 無垢な、天使のように笑うハニーに、僕は、もう一度、目を見開いた。


 え……っ!


 なぜ!?


 なぜだ!?


 僕が、あの時言ったこと。


 それは、ハニーとの別れるための言葉なんかじゃない。


 I LOVE YOU と。


 それでも、君のことが好きだと……言った……のに。


 僕は苦しくて声も出せないのに、ハニーだけが、穏やかで、雄弁だった。

「……嬉しかったよ、螢。
 君に、そう言ってもらえて。
 君のことが、ますます何にも代え難くなったから。
 もう、岩井君にも、ジョナサンにも……
 他の誰にも奪われ無い方法を考えたんだ」

「……だから、毒ガスを合成して……ばら撒いた、と?」

「……そうだ。
 どうせ、道連れにするなら、劇的な方がいい。
 この『死』は、言わば私たちの結婚式だよ。
 参列者は、多いに越したことは、ない」

「……何を莫迦なことを言ってるんだ!
 ガスなんて今すぐ、止めろ!
 僕は、もう、どこにも行かないし!
 あんたと別れるつもりも無い!」

 僕の最後の力を振り絞った声に。

 ハニーは、暗く笑った。

「もう、遅い。
 今、君の居るこの世界は……螢の夢。
 死んでゆく者が人生最後に見る、幸せな夢だ」

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