クリスマス・ハネムーン【ML】
 そう、岩井に言われて。

 僕は声無く呻いた。

 その時僕とは、父親違いの『姉』が病院で、人工呼吸器に繋がれていたんだ。

 姉の父親は、彼女が病気だと判った時点で失踪し。

 僕の父親は、そもそも、誰か判らない。

 シングルマザーだった母親も、僕達の成人を待たずに、僕らを捨てて行ってしまったから。

 僕にとって、半分、とは言え。

 彼女だけが本当の意味での血の繋がった『家族』だったのに。

 病気で死を、間近に控え。

 しかも『延命治療は、望まない』と。

 今よりマシな状態の時に、彼女本人から確かに聞いたハズだった。

 けれども。

 僕が、その命を惜しんで、無理やり生かし続けている、命があった。

 かなり重症度が進み。

 しかも、延命を望まないから。

 めったな病院では、受け入れてくれないハズの彼女が。

 今、世話になっているのが。

 僕の所属していた暴力団の息がたっぷり掛かった、悪徳病院だったんだ。

「お前さんが、裏世界から、足を洗うためには。
 自分のカラダのパーツなんかじゃねぇ。
 その女の命を、この世から、切り離す覚悟がいるんじゃねぇか?」

 憐れみか。

 それとも、嘲笑か。

 よく判らない表情(かお)をして。

 岩井は、微笑んだ。

「ま、どんな仕事をしても程度の差はあれ、辛いことは、あるもんだ。
 それを鑑みれば、店の売上げのナンバー・ワンを何度もかっさらい。
 客から料金も取りっぱぐれないお前さんは、この職業が、天職かもしれないじゃねぇか?
 細かいことは、気にせずに今夜も頑張れ」

 言って、取締役は、表向きは、ショー・パブと、ホストクラブの中間みたいな店の準備を始めるために、僕を追い出した。

 僕は。

 これ以上、誰にも相談することも出来ず。

 仕事で。

 プライベートで酒を飲む。

 ……飲んでも、せいぜい。

 自分の許容量を超えれば、眠ってしまうだけで。

 何の解決も見られない、ままに。

 酔いつぶれると見る悪夢に、うなされながら。




 
< 40 / 174 >

この作品をシェア

pagetop