カモミール・ロマンス

「そう。甘えて欲しかったらまずは自分から甘えること。頼って欲しかったらまずは自分から頼ること。
当り前なことだけど凄く難しいんだよ、これって」


分かってはいるけど納得はできていない。そんな直也の顔を見て、四葉は直也の頭をポンと叩いた。

「自分のこと好きになりたいなら、まずは他の人を好きになること。他の人を好きになりたいなら、まずは自分を好きになること。

ま、今は悩め悩め少年。じゃ、私はお風呂入るから」

そう言って四葉は、テーブルの上にあったタオルと浴衣を手に取り、浴室へと入っていった。

1人になった直也が空の缶を両手で握りながら呟く。

「何だよそれ"ニワトリと卵"の話じゃあるまいし……」

ゆっくりと立ち上がり空き缶をテーブルの端に置く。


「ん?ああ……そういうことか。
どっちが先とか理屈じゃないんだよな、きっと」

そう言って直也は優しく微笑んだ。

浴室の扉をノックする。

「四葉姉さん、オレもう帰るよ。お茶ご馳走様」

シャワーの音の中から微かに四葉の返事が聞こえる。

「分かったぁ、気を付けて帰りなね」

「うん……ありがと」

そうして直也はホテルを後にした。

歩調は心なしか軽く、いつもなら視界に入らない7月の花が柔らかく揺れていた。



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