野良夜行

ゆっくりとだが、頭に酸素が行き届いていく。

しかし、やっぱり思いだせない。
自分が誰なのか、なぜこんなところに居るのか。


目の前には、光が散りばめられた暗闇と、木々の影。
そして、眠気眼で見つめてくる、白い月。


「あの~、頭とか打っちゃいました?」


覗きこむ白い髪の少女。
二重がくっきりと見えるほど、顔が近い。

近い……。



「のわっ! すみません!」

思わず跳び起きてしまった。
膝枕されていたのか。どうりでいい香りが……。


「膝枕くらいなら、なんてことありませんよ」

ふふ、と口元を隠し笑う女の子。その仕草が、見事に着付けられた着物と似合っていて、思わず息をのんでしまった。


「それより、大丈夫ですか? その、ボーっとなさってましたけど」

「あ、はい。ちょっと酸欠になってたみたいで」


それならいいですけど、と呟き立ち上がる。背はそれほど高くなく、頭が俺の胸ぐらい。


「お家まで送りますよ。私、この山の事詳しいですし」


にこりと、愛想のいい笑顔を浮かべる。
何故だろう、すごく胸の内が、暖かくなるのを感じた。


「その前に、お名前聞いてもいいですか?」

「えと、俺の名前……」

「ん?」

「誰なんでしょう? 俺」




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