雪割草
 シローは鍋のお湯が沸き始めたのを確かめると、土手に停めて置いたリヤカーの荷台から、ジャガイモを二個取り出した。

そのまま川の水で泥を洗い流し、沸騰した鍋の中へポチャン、ポチャンと入れ、茹で始めた。

 濡れた手を乾かすように火に近づけ、腰を下ろしながら香奈に訊いたみた。

「きみは好きな人はいないのかい?

性格も明るいし、モテるだろうに……。」

 炎の中に枯れ枝を足した。

「いたよ……。

三カ月前まではね……。

ちゃんとした彼氏がさ……。

でも、その彼氏はバカな男でさ、よりによってあたしの友達にも手を出したの……。

もちろん、すぐ別れたんだけど。

それで頭にきたついでに、浮気相手の友達もボコボコにしてやった……。

そしたら、そいつが学校にチクりやがってさ……。

結局、親も学校に呼び出されちゃって……。

十日間の謹慎処分。

その夜に母親と大喧嘩して、家を飛び出したってわけ……。」

 香奈も枯れ枝を足しながら、焚き火を見つめた。

煙りが目にしみているのか、彼女の瞳が少しづつ潤んできていた。

< 105 / 208 >

この作品をシェア

pagetop