雪割草
 シローと香奈は膝を抱えながら、お湯が沸くのを待っていた……。

「ねえ……。シロー」

 香奈は黙っているのが苦手らしく、すぐに話しかけてきた。

「奥さんだった美枝子さんて、どんな人だったの?」

 自分の危機を救ってくれた美枝子に、少し興味を持っているようだった。

「うーん、そうだな……。

ありきたりの言葉かもしれないけど、とても優しい思いやりのある人だったよ……。

それに手先がとても器用で、このジャンパーも彼女が作ってくれたんだ」

 シローは久しぶりに、美枝子の事を他人に話したような気がした。

「ふーん、二人は愛し合っていたんだね……。

最初にリヤカーの荷台に隠れた時、人間の死体にびっくりして逃げ出しちゃったけど、途中で振り返りながらシローを見ていたの……。

そしたら、シローが労るようにシートの上から死体を撫でているのが見えて……。

おかしいなって思ったんだ……。

でも、その時は死んでいるのが男か女かは、判らなかったけど……。

それでもきっと、大切な人なんだろうなって……。

そんな気がした……。」

 香奈はそう言い終えると、膝の上に自分の顎を乗せた。

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