雪割草
 動脈が激しく波を打っていた。

鼓動が大きく破裂しそうになり、耳の側で聞こえていた。

 緊張感が張りつめる空気の中を、男が暗闇を裂いて言った。

「おい!これを使え」

 手に持っていた大きな発砲スチロールの箱をシローに手渡した。

中には箱一杯の氷が入っいた……。

「……………。」

 シローは訳も分からず、氷のかけらを凝視していた。

更に男はもう片方の手に持っていた買い物袋も差し出し、

「ほら、弁当だ!

賞味期限切れだが、まだ食えるぞ!」

 落ちついた低い声で言った。

 シローは思いもよらない事の成り行きに、少し拍子抜けしてしまった。

「あっ……。

ありがとうございます」

 シローはお礼を言うと、香奈と目を合わせた。

二人の心は次第に安堵感に包まれていった……。

気の抜けた香奈の体は、アスファルトの上にへばり付き、ようやく地べたの冷たさに気づいたようだった。

二人を見下ろすようにして、男はスーパーの建物を指差し、

「お前ら、その様子じゃあ、どうせ泊まる処も無いんだろう?

今日のところは、あの中に寝ろ!」

 建物の横には、配送用のトラックが停まっていた。

  
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