雪割草
 「う~、寒い……。」

 上田が寒さに背中を丸めながら戻って来た。

シローは悟られないようにと、目頭の雫を手で拭った。

「いい子でしたね……。」

 上田は自分の息を両手に吐き、温めながら言った。

その一言が心に響いた。

「はい……。」

 しかし、それ以上の言葉は見あたらなかった。

「そろそろ、行きますか?」

 上田はリヤカーの荷台に手を着いた。

シローはゆったりとすくい上げるように、リヤカーのハンドルを持ち上げた。

そして、なんとなく荷台が少し重く感じてしまうのは、このなだらかに続く坂道のせいではなく、きっと様々な人達の想いもすべて、積み込んでしまったからなのであろう。

そう漠然と認識しながら、リヤカーを引いて歩き出した。

上田もそれを後押していった。

゛野崎゛という街に辿り着くと、二人は《道の駅》のパーキングエリアを見つけ、今夜はここで一夜を明かす事にした。

パーキングエリアの公衆トイレに潜り込み、二人で腰を下ろし旅の疲れを癒やした。

 目を閉じると、香奈の最後の言葉が響いてきた。

゛シロー!何があっても、あきらめないで……。

諦めなければ、必ず辿り着くから……。゛

 優しいあの声がリピートされた。

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