雪割草
 その当時、美枝子はまだそういう生活には慣れていないらしく、化粧こそはしていなかったが、髪型や服装などはその辺にいる普通の人達と、なんら代わり映えはしていなかった。

 みんなで焚き火を囲みながら談笑していると、隣りに座っていた美枝子がポツリと一言呟いた。

「こうして、焚き火を見ていると田舎を思い出すわ」

 それを聞いたシローは、彼女を見つめ返した。

「へえー。どうして?」

「うん、うちの田舎じゃ毎年大晦日には神社でこうして焚き火をするの。小さな頃は、遅くまで起きていて良いのは大晦日ぐらいだったから、とても楽しかったわ」

「へえー。田舎って何処なんだい?」

「東北の小さな町よ」

「東北?東北のどこ?」

「福島なの」

「ふくしま?福島のどこ?」

「二本松の隣りの岩代町というところよ」

「えっ!岩代?俺は隣の東和町だよ」

「えー!本当に?」

急に、美枝子の口調のトーンが上がった。

「東和のどこ?」

「俺は戸沢!」

「私は小浜よ」

「へえ、じゃあ小浜中なんだ」

「うん、そう。じゃあさ、じゃあさ……。」

 それから二人は色々な事を話した。

小学校や中学校の事、お互いの共通の知りの事など話は尽きる事はなかった。

まだまだ話し足りない二人を、新宿都庁の上から満月が優しく照らしていた。


 明くる朝ーーー新宿中央公園には、新しく四棟の段ボールハウスが建っていた。


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