雪割草
 時を同じくして、シローの取調室の方では具に調書が取られ、若い田中という警官が拇印を捺させているところだった。

「よし、今日のところは、これぐらいでいいだろう」

 田中は胸ポケットから煙草を取り出し、ライターで火を着けた。

シローの方は、右手の人差し指を突き出し、ティッシュペーパーで拭っているところだった。


コン、コン……。

ドアをノックされ、田中が立ち上がり扉を開けると、廊下に立っていた警官が耳打ちを始めた。

不自然な間があき、時を止めている。

随分と神妙な顔つきで、耳元に神経を集中しているように見えた。

 話しを聞き終えた田中は、くわえていた煙草を零してしまった。

それを拾うことも忘れ、放心状態のままシローに近づいていくと、

「小林さん……。釈放です……。」

 両手を机の上に着き体を支えた。

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