雪割草
 十二支社通りのリヤカーを停めてある場所まで行くと、ニシヤンが待っていてくれた。

「待たせたな、ニシヤン」

 シローはリヤカーのハンドルを握った。

初秋の風が背中を押して、足取りを急かしているように感じた。

 二人でリヤカーを引き始め、十二支社通りから甲州街道に出て新宿方面へ向かった。

街道沿いの歩道を縦に並びリヤカーを引いていると、

「いいよな~、シローさんは美枝子さんが居て」

 ニシヤンが後ろから喋り掛けてきた。

「どうして?」

 シローは振り向きもせず、視線を新宿の高層ビルに見据えた。

「俺は時々、寂しい気持ちになるよ。年を取ったのかな……。」

「なーに、ニシヤンにもそのうち、いい人が出来るよ」

 今度は振り向いて、ニシヤンの顔を見ながらシローは言った。

「こんな世界に飛び込んでくる女なんて、そうそう居やしないよ」

 溜め息混じりのニシヤンの言葉には、諦めに似た重みがあった。

 そんな他愛もない会話をしていると、靖国通りと歌舞伎町入り口の交差点に着いていた。

二人は顔を見合わせ、そこで別れる事にした。

ニシヤンは靖国通りを真っ直ぐ進み、シローは歌舞伎町方面へと、段ボールを集めにリヤカーを引いて行った。


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